業務委託のスタイリストを迎える前に。サロンが書面で渡す取引条件と、募集文で盛ってはいけないこと
歩合で働く業務委託のスタイリストを迎えるとき、報酬の割合や締め日を面談の場で口頭で伝え、募集はInstagramの投稿1枚で済ませる。2024年11月1日に施行されたフリーランス法(正式名は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)は、この進め方の両方に決まりを置いています。先に答えをお伝えします。条件書や募集文の文面はAIに頼めますが、どの条件を書くか、報酬をいくら、いつ払うかは、サロンが先に決めておく中身です。
9月18日の『最低賃金、10月から上がります。サロンの求人票と店頭の「時給」を直す順番と、AIに渡す数字』では、業務委託で施術するスタイリストは原則として最低賃金法の対象外だとお伝えしました。今回はその続きで、委託する側のサロンに掛かる義務の話です。公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省のパンフレット(令和8年9月改訂版)、厚生労働省の通達と指針、e-Govの条文を確認し(2026年9月25日時点)、AIに渡す前にサロンで決めておくことを整理しました。
口約束で始めない、DMだけで募集しない
業務委託で迎えるときは、従業員がいないサロンでも、報酬の額や支払期日などの取引条件を書面かメッセージで渡します(電話など口頭は認められません)。従業員を使うサロンは、施術を受けた日から60日以内で支払期日を決めて報酬を払うこと、募集文に名称・住所・連絡先・業務の内容・場所・報酬の6つを載せ、実際より高く見せないことも加わります。この中身を決めてから、AIには文面を整える作業だけを頼みます。
「雇う」と「委託する」で変わる法律
雇用契約で働くスタッフには、労働基準法や最低賃金法が掛かります。業務委託で迎えるスタイリストは、サロンから施術という仕事を任される事業者として扱われ、このときに掛かるのがフリーランス法です。
アシスタントを雇わずに一人で施術を受け持つスタイリストなら、個人でも一人の法人でも、この法律の対象になるフリーランスに当たります。法律はこれを「特定受託事業者」と呼び、業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使わない個人か、代表者1人のほかに役員も従業員もいない法人と定めています(第2条第1項)。
気をつけたいのは、契約書に「業務委託」と書いてあるだけでは決まらないことです。パンフレットは、形式的に業務委託契約を結んでいても、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合は労働基準関係法令が適用され、フリーランス法は適用されない、としています。厚生労働省も、労働者に当たるかどうかは契約の形式や名称にかかわらず、実態を勘案して総合的に判断される、と案内しています。自店の契約がどちらに当たるかは、都道府県労働局や労働基準監督署に確かめてください。ここから先は、実態も業務委託である前提で進めます。
従業員の有無と期間で変わる7つの義務
フリーランス法の義務は7つあり、委託するサロンの形によって掛かるものが変わります。分かれ目は、サロンが従業員を使っているかどうかです。厚生労働省のページは、ここでいう従業員を「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者」とし、同居の親族だけを使っている場合は当たらない、としています。受付やアシスタントを週20時間以上かつ31日以上続く見込みで雇っているサロンは、従業員を使う側です。
法人の場合は、役員が2人以上いれば、従業員がいなくても同じ扱いになります(第2条第6項)。条文とパンフレットにある区分を、サロンの形に合わせて並べ直しました。
| 義務(条文) | 従業員がいないサロン | 従業員がいるサロン |
|---|---|---|
| 取引条件の明示(第3条) | 掛かる | 掛かる |
| 60日以内の報酬の支払(第4条) | ─ | 掛かる |
| 募集情報の的確な表示(第12条) | ─ | 掛かる |
| ハラスメント対策の体制整備(第14条) | ─ | 掛かる |
| 禁止行為(第5条) | ─ | 1か月以上の委託で掛かる |
| 育児・介護との両立への配慮(第13条) | ─ | 6か月以上の委託で掛かる(6か月未満は配慮に努める) |
| 解除・更新しないときの30日前の予告(第16条) | ─ | 6か月以上の委託で掛かる |
第5条の禁止行為は、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しの7つです。ただし、施術のような役務の提供の委託では、条文で受領拒否と返品が除かれており、サロンに掛かるのは残りの5つです(第5条第1項)。パンフレットは、フリーランスの了解を得たり合意していても、発注する側に違法性の意識がなくても、これらの行為は違反になる、と注意を促しています。
期間は、契約を結んだ日から契約が終わる日までで数えます。契約を更新して続けている場合は、当事者が同じで業務の内容に一定程度の同一性があり、前の契約が終わってから次の契約までの空きが1か月未満であれば、最初の契約の始まりから最後の契約の終わりまでを通して数える、とパンフレットは示しています。1か月ごとの契約を間を空けずに更新しているスタイリストなら、更新によって通算6か月以上続くことになった時点から、第13条と第16条の対象です。契約の終わりを決めずに任せている委託は、指針により、6か月以上の委託に含まれます。第16条の予告には、災害などのやむを得ない事由で予告が難しい場合や、スタイリストの責めに帰すべき事由がある場合などの例外があります。責めに帰すべき事由は、予告の保護が要らないほど重大・悪質なものかで判断される、とパンフレットは示しています。予告してから契約が終わるまでの間にスタイリストから解除の理由を求められたら、第三者の利益を害するおそれがある場合などを除いて、遅滞なく開示します(第16条第2項)。
違反があった場合、行政機関は調査のうえで指導・助言や勧告を行い、勧告に従わないときは命令・公表ができます。命令に違反すると50万円以下の罰金です(第24条)。
書面で渡す取引条件 ─ LINEのメッセージも「電磁的方法」
表の1行目の取引条件の明示は、従業員がいないサロンにも掛かります。業務委託をしたら直ちに、条件を書面か電磁的方法で示します。パンフレットは電磁的方法の例として、電子メール、SMS、SNSのメッセージ、チャットツールを挙げ、電話など口頭で伝えることは認められない、としています。
面談で条件がまとまったら、その場ですぐにLINEのメッセージで送る形も、パンフレットが挙げる電磁的方法(SNSのメッセージ)に当たります。解釈ガイドラインは「直ちに」を、すぐにという意味で一切の遅れを許さないこと、としています。書類の名前も問われず、発注書でも契約書でも構いません。条件を書いたPDFを添付する方法や、条件を載せたページのURLを送る方法も認められています。示す項目は次の8つです(6と8は当てはまるときだけ)。
取引条件として示す8つの項目(パンフレットの①〜⑧)
- ・① サロンとスタイリスト、それぞれの名称(ビジネスネームでも、相手を識別できれば可)
- ・② 業務委託をした日(委託することで合意した日)
- ・③ 任せる業務の内容(施術メニューの範囲など)
- ・④ 役務の提供を受ける期日(いつから施術に入るか。期間を決めて任せるなら、その期間)
- ・⑤ 役務の提供を受ける場所(どの店舗か)
- ・⑥ 業務の内容を検査する場合は、検査を完了する期日
- ・⑦ 報酬の額と支払期日(額を示しにくいときは算定方法)
- ・⑧ 金銭以外の方法で報酬を払う場合は、その支払方法
歩合で払うサロンで要になるのは、8つの項目のうち⑦の報酬の額と支払期日です。パンフレットは、具体的な金額を示すことが難しいやむを得ない事情があるときは算定方法での明示を認め、その算定方法は、根拠が確定すれば額が自動的に確定するものである必要がある、としています。施術売上の何割を払うのか。薬剤代や材料費を差し引くのか、差し引くなら何をどの順番で引くのか。ここが書かれていないと、月末の締め日に金額が一つに決まりません。算定方法で示したときは、締め日に金額が確定したら、その金額も速やかにスタイリストへ示します(解釈ガイドライン)。
報酬の計算で何を差し引くかは委託する時点で算定方法に書いておき、あとから項目を足しません。パンフレットは報酬の減額を「フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を、後から減らして支払うこと」と説明し、違反となる例に、ネイルサロンが施術を委託したネイリストの報酬から、店内内装の充実のためとして「協力金」を一定率で差し引いた例を挙げています。解釈ガイドラインは、あらかじめ合意があったとしても、スタイリストの責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずる場合は違反になるとし、協力金のような店への金銭の提供も、名目を問わず不当な経済上の利益の提供要請の対象になりうる、としています。
支払期日は、具体的な日を特定して書きます。従業員を使うサロンが守る「60日以内のできる限り短い期間」(第4条)は、施術(役務の提供)を受けた日から数えます。パンフレットは、月単位で締める場合の例として、毎月末日で締めるなら支払期日を翌月末日までに設定する必要がある、と示しています。施術のように続けて提供される委託には、締め日までの分を払うと条件書に明記するなどの要件をすべて満たせば、締め日から数えてよいという例外も解釈ガイドラインにあります。歩合で払う形が要件に当たるかは、公正取引委員会などの窓口で確かめてから使います。
毎月同じ条件で続く委託なら、支払方法など共通する条件を有効期間とあわせて先に示しておき、その後の委託では参照元を示す形もとれます。LINEやInstagramで送った条件については、パンフレットが、メッセージが削除されたり閲覧できなくなったりする可能性があるため、スクリーンショットなどで内容を保存しておくとよい、と添えています。メッセージで示した場合でも、スタイリストから書面を求められたら、遅滞なく書面を渡します(第3条第2項)。ただし、スタイリストの求めでメッセージにした場合や、すでに書面を渡している場合などは、必ずしも渡す必要はない、とパンフレットは示しています。
募集文に欠かせない6つの情報と、盛ってはいけない表示
取引条件の明示のほかに、従業員を使うサロンにはもう一つ、募集の出し方に関わる義務があります。業務委託のスタイリストを募集するときに掛かる第12条です。広告などで募集の情報を出すときに、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、その情報を正確かつ最新の内容に保たなければならない、という条文です。厚生労働省の指針は、ここでいう広告などに、文書の掲出、自社のホームページ、SNSのメッセージ機能などを含めています。店頭の貼り紙やInstagramの投稿も、この広告などに当たります。SNSのメッセージも、複数の人へ広く募集の案内を送るなら同じ扱いです。
厚生労働省は2024年12月18日の通達で、募集の情報には、①募集を行う者の氏名または名称、②住所(所在地)、③連絡先、④業務の内容、⑤業務に従事する場所、⑥報酬の6つを含める必要がある、と示しました。同じ趣旨のリーフレットは、SNSなどで募集するときにこの6情報が記載されていない場合は法令違反になる、としています。
リーフレットのQ&Aは、書き方の細かいところにも答えています。住所は、ビル名・階数・部屋番号まで。連絡先は、電話番号、メールアドレス、自社サイトに備えた専用の問い合わせフォームへのリンクのいずれか。6情報を載せた採用ページのURLを貼るだけでは足りず、募集を出す投稿や広告そのものに6情報を書く必要がある、としています。報酬は「報酬40万~(要相談)」のような書き方でも、記載があれば、個別具体の判断にはなるものの直ちに第12条違反とはならない、という回答です。
Instagramの募集投稿で並べると、違いは次のとおりです。文面は例です。
6情報が欠けた募集投稿
業務委託スタイリスト募集。高還元・自由出勤・ノルマなし。興味のある方はDMください。──店名はあっても、住所・連絡先・業務の内容・場所・報酬が書かれていない。「DMください」だけでは、リーフレットのQ&Aが挙げる連絡先(電話番号・メールアドレス・問い合わせフォームへのリンク)にも当たらない。
6情報をそろえた募集投稿
業務委託(雇用ではありません)のスタイリスト募集。募集主: 店名と運営会社名(個人経営なら事業主の氏名)。住所: 番地、ビル名・階数・部屋番号まで。連絡先: 電話番号とメールアドレス。業務: カット・カラー・パーマの施術。場所: 上記の店舗。報酬: 施術売上(税抜)の◯%(薬剤代は店が負担)。2026年9月25日時点の募集。
6情報のほかに、指針が誤解を生じさせないよう留意する点として挙げているものがあります。報酬額などを、実際の額より高額であるかのように表示しないこと。業務委託の募集と、労働者(雇用)の募集が混同されないように表示すること。職種の名称を、実際の業務の内容と著しくかけ離れたものにしないこと。正社員のスタイリストと業務委託のスタイリストを1枚の投稿で募るなら、どちらの条件なのかが読み分けられる形にします。リーフレットの図も、募集主の氏名などが無いまま「高額報酬 即日入金 興味のある人はDMで」「高待遇 負担なくラクに稼げる以下のリンクより応募」と書いた投稿を、認められない例として描いています。
最新に保つほうは、指針が具体的に書いています。募集を終えたときや内容を変えたときは、速やかに情報の提供を終えるか変更すること。情報の時点を明らかにすること。固定した投稿やプロフィールのリンク先に古い歩合率が残らないよう、投稿には作成日を入れておきます。雇用のスタッフを募る求人にも同じ6情報が要ることは、『求人原稿をAIに任せる前に。サロンの募集で必ず載せる項目と「変更の範囲」』で整理しました。業務委託の募集と雇用の求人を並べて出すサロンでは、両方の6情報を同じ日にそろえます。
AIに条件書と募集文のたたき台を頼むときの渡し方
ここまでで、サロンが決める中身がそろいました。自店が従業員を使う側かどうか、取引条件の8項目、募集に載せる6情報です。AIに頼むのは、この中身を使った条件書と募集文の文面だけにします。渡すメモは、決めた条件を先頭に置き、数字と日付は書き換えないでほしいと添えます。埋めた形は、たとえばこうなります(数字は例です)。
- ・サロンの区分: 受付スタッフを週30時間・期間の定めなしで雇っている(従業員を使う側。第4条・第12条・第14条が掛かり、1か月以上続く委託なら第5条、6か月以上なら第13条・第16条も掛かる)
- ・業務の内容: カット・カラー・パーマの施術。予約は店の予約ページで受け付ける
- ・場所: ◯◯店(住所はビル名・階数・部屋番号まで)
- ・報酬: 施術売上(税抜)の◯%。薬剤代・タオル代は店が負担し、報酬から差し引かない
- ・締め日と支払日: 毎月末日締め、翌月20日に口座振込(振込手数料は店が負担)。締め日のあとに確定した金額をLINEで送る
- ・渡し方: 条件書はLINEで送り、PDFも添付する。書面を求められたら紙で渡す
- ・募集文: 6情報を省かない。「高還元」「稼げる」など、この条件にない言葉を足さない。末尾に作成日を入れる
渡さないものも決めておきます。スタイリスト本人の氏名・住所・口座番号は、文面のたたき台を作るだけならAIに入れる必要がありません。上がってきた文面を受け取ってから、手元で書き込みます。報酬の割合や支払日を決める判断も、AIには任せません。
上がってきた文面で見る場所は4つです。条件書に8つの項目がそろっているか。報酬の割合と差し引くものが、渡したメモと同じか。支払期日が、施術を受けた日から60日を超えていないか。募集文から6情報のどれかが落ちていないか、渡していない条件(「日払い可」「ノルマなし」など)が足されていないか。
条件書の中身が法律の求める明示に足りているかの確認は、AIではなく、下のよくある質問にある窓口や専門家に任せます。ここまでが、AIに渡す前にサロンで決めておく範囲です。
よくある質問
面貸し(席を貸して席料をもらう形)でも、フリーランス法は関係しますか?
分からないことがあったら、サロンはどこに相談すればいいですか?
参考にした情報
この記事の制度は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省のパンフレット、厚生労働省の通達・リーフレット・指針、e-Govの条文を確認して書きました(2026年9月25日時点)。募集の6情報は、厚生労働省の通達(令和6年12月18日)で確認しています。
出典
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