最低賃金、10月から上がります。サロンの求人票と店頭の「時給」を直す順番と、AIに渡す数字
令和8年度(2026年度)の最低賃金は、9月3日までに47都道府県すべてで答申が出そろいました。10月1日から順次、発効(実際の適用が始まること)します。先に答えをお伝えします。求人票の時給を書き換える作業はAIに頼めますが、いくらに・いつから・どこを直すかは、サロンが先に確定させる数字です。
受付のパートスタッフの時給を去年の下限に合わせているサロンなら、発効日の当日から下限が変わり、求人票と店頭の貼り紙にも古い数字が残ります。厚生労働省が公開している答申状況と制度の説明を確認し(2026年9月18日時点)、AIに渡す前にサロンで決めておく3つの数字を整理しました。
文面より先に確定させる3つの数字
自店の県の改定額と発効日(発効日は答申の公示後に変わる可能性があります)。時給として比べる金額(通勤手当・精皆勤手当・家族手当は除いて数えます)。時給を書いている面の一覧と、直す順番。この3つを決めてから、AIには文面の書き換えだけを頼みます。
10月から変わる数字 ─ 自店の県の改定額と発効日
最低賃金は国が定める賃金の下限で、都道府県ごとに金額が決まります。令和8年度の改定額は、全国加重平均で1,177円。改定前の1,121円から56円の引上げです。
厚生労働省の「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」から、7つの都道府県だけを抜き出します。同じ10月でも発効日が違い、11月・12月の府県もあります。自店の県の金額と日付は、都道府県労働局の公示(答申のあとに出る正式な発表)で確かめてください。
| 都道府県 | 答申された改定額(改定前) | 発効日(予定) |
|---|---|---|
| 東京 | 1,280円(1,226円) | 10月1日 |
| 大阪 | 1,231円(1,177円) | 10月1日 |
| 愛知 | 1,195円(1,140円) | 10月1日 |
| 福岡 | 1,114円(1,057円) | 10月4日 |
| 石川 | 1,113円(1,054円) | 10月3日 |
| 京都 | 1,180円(1,122円) | 11月16日 |
| 沖縄 | 1,086円(1,023円) | 12月2日 |
10月1日に発効するのは15都道府県です。10月中の別の日が22県、11月が7府県、12月が3県と分かれています。答申状況の資料には、発効日は答申公示後の異議の申出の状況等により変更となる可能性がある、と注記があります。
金額は、中央最低賃金審議会の目安をもとに各都道府県の審議会が答申(改定額の案を示すこと)し、異議申出の手続を経て都道府県労働局長が決定します。答申の段階で数字は見えていますが、労働局長が決定するまでは予定の扱いです。
発効日からは、最低賃金法第4条により、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。同じ条文の第2項は、最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約はその部分について無効とし、最低賃金と同様の定めをしたものとみなす、と書いています。受付やアシスタントの時給を去年の下限に合わせていたサロンでは、発効日の当日から、契約書の数字とは別に新しい下限が効きます。ただし、比べる時給に手当を足してよいかは別の話です。次の章で分けます。
「時給◯円」に含めてよい手当・含めない手当
時給を比べるとき、制度の対象から外れる手当があります。厚生労働省の「最低賃金の対象となる賃金」は、対象を毎月支払われる基本的な賃金とし、実際に支払う賃金から一部を除いたものを最低賃金と比べる、と説明しています。
厚生労働省の一覧で名前を挙げて除外されているのは、精皆勤手当・通勤手当・家族手当です。この3つは、時給に足して比べることができません。ほかに、結婚手当のような臨時の賃金、賞与のように1か月を超える期間ごとに払う賃金、所定労働時間を超える時間や所定労働日以外の日の労働に対して払う賃金(時間外・休日の割増賃金など)、深夜労働の割増部分も対象から外れます。
手当を足して届いたつもりになる計算と、制度が比べる計算を並べます。数字は例です。
手当を足して届いたつもりの見方
基本の時給1,060円に、通勤手当と皆勤手当を時間あたりに直して足すと1,120円。「県の金額1,113円を超えているから足りている」と受け止める。
制度が比べる見方
通勤手当・精皆勤手当・家族手当は比べる対象に入れない。基本の時給1,060円そのものが、自店の県の金額以上かどうかを見る。この例では53円足りない。
月給や歩合で払っているスタッフも、対象から外れるわけではありません。厚生労働省の制度の概要は、最低賃金額以上かどうかは賃金額を時間当たりの金額に換算して比較する、としています。月給を所定労働時間(契約で決めた働く時間)で割る換算や歩合の扱いは、都道府県労働局か社会保険労務士に確認してください。換算式そのものには、ここでは踏み込みません。
対象になる人・ならない人 ─ 試用期間と業務委託
手当のほかに、人の側でも確かめることが2つあります。1つ目は試用期間です。試用期間中の減額は、最低賃金法第7条が都道府県労働局長の許可を受けたときに限って認める仕組みです。許可を受けずに店が独自に「研修中は◯円」と下げる根拠にはなりません。減額を考えるなら、許可の要件と手続を労働局に確認してください。
2つ目は業務委託です。最低賃金法の「労働者」は、労働基準法第9条の労働者を指します(同居の親族だけで営む店で働く家族などは除きます)。そのため、業務委託で施術しているスタイリストは原則として対象外です。ただし、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省のフリーランス法のパンフレットは、形式が業務委託でも実質的に労働者と判断される場合は労働基準関係法令が適用される、としています。迷う契約があるなら労働局へ相談する場面です。業務委託で迎えるときにサロンが渡す取引条件と募集文の決まりは、『業務委託のスタイリストを迎える前に。サロンが書面で渡す取引条件と、募集文で盛ってはいけないこと』で整理しました。
求人票の金額は正確かつ最新に保つ義務 ─ 職業安定法との重なり
ここまでは払う側の話でした。求人票に書く側には、別の法律が重なります。職業安定法第5条の4は、広告等で労働者の募集に関する情報を提供するときに、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないと定め、同じ条の第2項で、労働者の募集を行う者はその情報を正確かつ最新の内容に保たなければならない、としています。発効日を過ぎて古い時給が残った求人票は、応募する人が見る金額と実際に払う下限が食い違い、この第2項が見る場面になります。求人票に必ず載せる項目と、令和6年4月から増えた「変更の範囲」の書き方は『求人原稿をAIに任せる前に。サロンの募集で必ず載せる項目と「変更の範囲」』で整理しました。あの記事で「賃金」に当たる欄が、今回書き換える場所です。
求人媒体の側にも基準があります。Indeedの求人票作成ガイドは、給与の最低額について「法令に基づく地域別および特定(産業別)の最低賃金額以上の金額を入力してください」と案内しています。去年の下限に合わせた金額のままの求人票は、発効日をまたぐとこの条件を満たさなくなります。求人票のほかにも、時給は複数の面に書かれています。次の章で、面ごとに洗います。
時給を書いている面を洗う順番 ─ 契約書から店頭まで
サロンでは、時給は求人票だけに書かれているわけではありません。募集を出したあと、自店のサイトやInstagram、店頭の貼り紙へ広がり、店の中では雇用契約書と給与計算の設定に同じ数字が入っています。1か所だけ直して終わると、古い数字が別の面に残ります。
時給を書いている面の一覧(自店にある分だけ残す)
- ・スタッフの雇用契約書・労働条件通知書
- ・給与計算ソフト・勤怠アプリの時給単価
- ・求人媒体(Indeedなど)に出している求人票
- ・美容業界の求人サイトに出している募集
- ・自店サイトの採用ページ
- ・Instagram・Xの募集投稿、ハイライト、プロフィールのリンク先
- ・店頭の貼り紙、店内の掲示、ショップカードの裏
順番は、発効日から逆算して内側から外側へ。先に雇用契約書と給与計算の単価を新しい金額にし、次に求人媒体、自店サイト、SNS、店頭の順で直します。外側の面は、応募する人が営業時間外に見に来る場所です。内側の数字が決まる前に外側だけ書き換えると、面接のときに契約書の金額と合わなくなります。
直した面には、一覧にその日付を書き足します。来年の改定のときにも同じ作業が回ってくるので、一覧が残っていれば、次は探すところから始めずに済みます。
AIに直させるときに渡す数字と、渡さないもの
ここまでで、3つの数字がそろいました。自店の県の改定額と発効日、手当を除いて比べた新しい時給、時給を書いている面の一覧です。AIに頼むのは、この数字を使った文面の書き換えだけにします。渡すメモは、確定した数字を先頭に置き、書き換えないでほしいと添えます。埋めた形は、たとえばこうなります(数字は例です)。
- ・県と発効日: 石川県。10月3日から時給の下限が1,113円
- ・職種ごとの新しい時給: 受付 1,120円、アシスタント 1,150円(通勤手当・皆勤手当は別に支給。この額に含めない)
- ・直す面: Indeedの求人票、自店サイトの採用ページ、Instagramの固定投稿、店頭の貼り紙
- ・書き方: 「時給1,120円以上」の形で。金額と発効日はこのメモから変えない
渡さないものも決めておきます。スタッフ個人の給与明細、氏名、生年月日は入力しません。AIに渡してよい情報の線は『お客様情報、AIに入れて大丈夫?サロンで決めたい3つの個人情報ルール』で整理したとおりで、スタッフの情報も同じ扱いです。金額の計算そのものもAIには任せません。換算や手当の判断は、労働局か社会保険労務士に確かめる範囲です。
上がってきた文面で見る場所は、金額・発効日・「以上」の3点に絞ります。渡していない金額を作っていないか、「1,120円〜1,500円」のような幅を勝手に足していないか、「最低賃金ぎりぎり」といった言い回しが入っていないか。ほかは読み物として整っていれば十分です。
自店の賃金が最低賃金法のどこに当たるか、求人票の表示が職業安定法に沿っているかは、都道府県労働局・労働基準監督署・社会保険労務士にご確認ください。ここまでが、AIに渡す前にサロンで確定させておく範囲です。
よくある質問
Instagramに残っている去年の募集投稿は、消さないといけませんか?
月給に固定残業代が入っているアシスタントは、どう比べればいいですか?
発効日の前に、求人票を新しい金額に直してもいいですか?
参考にした情報
この記事の金額と制度は、厚生労働省の資料とe-Govの条文を確認して書きました(2026年9月18日時点。答申状況の発効日は予定です)。自店の県の公示は、都道府県労働局のページで最新の内容をご覧ください。求人広告の表示については、厚生労働省の「労働者の募集広告の表示について」も参照しました。
出典
求人票の書き換えを、毎年の決まった作業にしたい方へ
GlamAIサロン版のプロンプトライブラリでは、確定した数字を先頭に置いた依頼文をテンプレートとして保存し、チームで共有できます。来年の改定では、県と金額と発効日を差し替えるだけで同じ手順を回せます。
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