インボイスの経過措置、10月から70%に。業務委託や家賃を払うサロンが、自店に関係あるかを確かめる順番
業務委託のスタイリストへの報酬、店舗の家賃、撮影を頼んだ個人のカメラマンへの支払い。支払先の中にインボイス発行事業者の登録をしていない相手がいるサロンでは、2026年10月1日から消費税の計算の一部が変わりました。登録していない相手(免税事業者など)に払った消費税相当額のうち、差し引ける割合が80%から70%に下がっています。この変更が納める消費税に響くのは、一般課税で申告しているサロンです。
9月25日の『業務委託のスタイリストを迎える前に』では、業務委託で迎えるときに書面で渡す取引条件をお伝えしました。今回はその報酬にかかる消費税の話です。国税庁・財務省・公正取引委員会などの資料を確認し(2026年10月2日時点)、自店が関係あるかを確かめる順番に整理しました。
一般課税なら関係あり、簡易課税・2割特例なら計算に入らない
10月1日以降の仕入れで、相手がインボイス発行事業者でなければ、差し引けるのは消費税相当額の70%です(9月30日までは80%)。業務委託は、原則として仕事が完了した日で判定します。この割合が納める消費税に響くのは一般課税のサロンで、売上の消費税から計算する簡易課税・2割特例のサロンでは、支払先の登録の有無は計算に入りません。ただし2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わるので、次の期の申告の方法もあわせて確かめてから、支払先を洗い出します。
10月1日から下がった控除の割合 ─ 8割から7割、その先の5割・3割
インボイス制度では、仕入れにかかった消費税を納める額から差し引く(仕入税額控除)には、原則として相手が発行したインボイスの保存が要ります。登録していない相手からはインボイスを受け取れないため、本来は差し引けません。ただ、制度が始まった2023年10月から一定期間は、払った消費税相当額の一定割合を差し引ける経過措置が置かれています。
この割合が、令和8年度の税制改正で見直されました。改正前は2026年10月から3年間50%に下がる予定でしたが、経過措置が終わる時期を2029年9月末から2031年9月末へ2年延ばし、下げ幅も小さくしています。財務省の大綱の概要は、この見直しを「引下げのペース・幅を緩和する」と書いています。期間と割合は次のとおりです。
| 仕入れを行った期間 | 差し引ける割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 消費税相当額の80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 消費税相当額の70%(今回の変更) |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 消費税相当額の50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 消費税相当額の30% |
| 2031年10月1日以降 | 差し引けない |
あわせて、同じ相手からの仕入れが1年(法人は事業年度)で税込1億円を超えると、超えた部分にはこの経過措置が使えなくなりました(改正前は10億円。2026年10月1日以後に始まる課税期間から)。割合はこの先も段階的に下がります。次の章で、この割合が自店の計算に響くかを確かめます。
関係があるのは一般課税のサロン ─ 簡易課税・2割特例との分かれ目
経過措置の割合が効くのは、仕入れにかかった消費税を計算して差し引く方法(一般課税)で申告しているサロンです。財務省・公正取引委員会などがまとめたQ&A(Q5)は、簡易課税制度を適用している課税事業者について「インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係では留意する必要はありません」と書き、2割特例を使っている場合も同じだと注記しています。簡易課税は、売上にかかる消費税に業種ごとの割合(みなし仕入率)を掛けて差し引く額を決める方法です。前々年(法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下なら、届出をして使えます。
割合の変更が計算に響くサロン
一般課税で申告している課税事業者のサロン。業務委託のスタイリスト、店舗の家主、個人の外注先がインボイス発行事業者でなければ、10月1日以降の仕入れで差し引ける額が減り、そのぶん納める消費税が増えます。
計算に入らないサロン
簡易課税または2割特例で申告しているサロン(売上の消費税から計算する)。消費税の納税が免除されている免税事業者のサロンも、仕入税額控除の計算そのものをしません。
簡易課税・2割特例のサロンにも、確かめておくことがあります。2割特例には期限があり、国税庁の改正資料(リーフレット「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」)によると「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」で終わります。同じリーフレットは、要件を満たす個人事業者が令和9年分と令和10年分に納税額を売上税額の3割とする3割特例を使えるとし、法人は「適用不可」と示しています。2割特例を使ってきた法人のサロンが次の課税期間から一般課税で申告するなら、そこから支払先の登録の有無が計算に入ります。自店がいまどの方法で申告しているか、次の期にどれを選ぶかは、顧問の税理士か税務署に確かめてください。
支払先の洗い出しと判定の日 ─ 業務委託・店舗の家賃・個人の外注
一般課税のサロンなら、次は支払先です。国税庁のタックスアンサー(No.6451)は、課税仕入れに当たる取引として、事業用の建物の賃借、外注費、清掃などを外部に委託した場合の委託料を挙げ、給与等の支払は課税仕入れに含まれないとしています。住宅の貸付けは非課税(No.6201)なので、家賃で見るのは店舗として借りている物件です。
同じスタイリストでも、雇用して給与を払っている人は対象外で、業務委託で報酬を払っている人が対象です。ただ、給与か報酬かは契約の名前ではなく実態で決まります。消費税法基本通達1-1-1は、雇用契約やこれに準ずる契約に基づく対価かどうかで分け、はっきりしないときは、店の指揮監督を受けているか、材料や道具を店から渡されているかなどを総合して判定するとしています。働き方が雇用に近い人は、税理士に確かめてから一覧に入れます。
月末に請求書や振込の控えをまとめるときに、次の順で見ていきます。
10月1日以降の仕入れから確かめる支払先
- ・業務委託のスタイリスト・ネイリスト・アイリストへの報酬(雇用して払う給与は対象外)
- ・店舗の家賃(とくに家主が個人のとき)
- ・個人に頼んでいる撮影・デザイン・ホームページの更新・清掃の委託料
- ・それぞれの相手がインボイス発行事業者か(請求書の登録番号と、国税庁の公表サイト)
- ・登録していない相手への支払いに、帳簿で経過措置の対象と分かる記載をしているか(書き方は末尾のよくある質問)
業務委託で迷うのが、9月から10月にまたがる仕事です。国税庁のQ&A(問113-3)は、役務の提供を受けた場合の課税仕入れの時期を「原則として、その約した役務の全部が完了した日」とし、9月21日から提供を受けて10月20日に完了、10月31日に支払う例で、70%を使うと答えています。支払った日ではなく、原則として完了した日で判定するということです。毎月の歩合報酬のように、どの日に仕事が完了したと見るかは契約の決め方で変わる場面があるので、締め日の決め方とあわせて税理士に確かめておきます。
シャンプーや薬剤のような商品の仕入れは、原則として引渡しの日で判定します。同じQ&Aの例では、9月30日までに受け取った分が80%、10月1日以降に受け取った分が70%です。店舗の家賃は、役務とも商品とも別に、原則として契約や慣習で支払うべきとされる日で判定します(消費税法基本通達9-1-20・11-3-1)。ただし通達9-1-20は前払い(前受け)の分をこの扱いから除いているので、10月分を9月中に払う前家賃のように先払いしている分は、支払日だけでは割合が決まりません。9月分・10月分の家賃にどちらの割合を使うかは、契約書の支払日と何月分の家賃かを手元に置いて税理士に確かめます。割合が下がると1か月いくらの差になるかを、次の章で試算します。
1か月あたりの差額の目安 ─ 税込30万円の業務委託報酬の場合
割合が10ポイント下がると、どれくらい変わるのか。登録していない業務委託のスタイリストに税込30万円の報酬を払う月で、目安を出します。国税庁のQ&A(問130)の計算は、国税の部分を110分の7.8で出すなど、実際はもう少し細かく決まっています。ここでは消費税と地方消費税を合わせた110分の10で概算します。
30万円に含まれる消費税相当額は約27,273円です。9月までの80%なら約21,818円、10月からの70%なら約19,091円を差し引けます(円未満は四捨五入)。差は1か月で約2,727円、12か月で約3万3千円で、そのぶん納める消費税が増えます。2028年10月からの50%になると、差し引けるのは約13,636円です。
この数字は計算の考え方を示す例で、自店の税額ではありません。実際の額は、端数の処理、税抜経理か税込経理か、積上げ計算か割戻し計算かで変わります。業務委託の人数と報酬の額を掛け合わせて、自店ではどの程度の差になるのかを、決算や申告の前に税理士と一緒に確かめてください。
報酬を見直す前の2つの決まり ─ 独占禁止法とフリーランス法
差額が見えると、報酬の見直しを考えたくなる場面があります。財務省・公正取引委員会などのQ&A(Q7)は、インボイス制度を踏まえて取引条件を見直すことそれ自体は「直ちに問題となるものではありません」としたうえで、問題にならない場合と問題になる場合を分けて示します。
1つ目は、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者が仕入れや諸経費で払った消費税も考慮に入れ、双方が納得したうえで取引価格を決める場合です。結果として引き下げになっても、独占禁止法上は問題とならないとしています。2つ目は、再交渉が形式的なものにすぎず、支払う側(Q&Aでは「買手」)の都合のみで、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような著しく低い価格を設定する場合です。Q&Aは、これを優越的地位の濫用として問題になるとしています。
同じQ&A(Q5)は、免税事業者に払った消費税相当分が納付税額に与える影響は「この経過措置の対象とならない分に限定されます」と書いています。10月からなら差し引けない30%の部分で、前の章の例では1か月約8,182円です(9月までの20%の部分より約2,727円増えます)。
Q5は、免税事業者も自分の仕入れで払った消費税分を請求価格に織り込む必要があることに留意するよう求めています。取引価格の見直しが適当でない場合は、支払額を減らすのではなく、ほかのコストとあわせて自店の販売価格などに転嫁できないかを検討することも挙げています。
相手に登録をお願いするときの注意もQ&Aにあります。Q7の6は、課税事業者になるよう要請すること自体は独占禁止法上問題となるものではないとしています。ただし、相手が課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切る、といったことを一方的に通告することは、独占禁止法上または取適法上、問題となるおそれがあるとしています。取適法は、Q&Aの注で「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」のことと示されています。相手が課税事業者になったときに、相手が新たに納める消費税分について明示的に協議しないまま報酬を据え置くことも、問題となるおそれがあるとしています。Q5にも同じ注意があり、この段落には簡易課税かどうかの条件が付いていません。
すでに条件を決めて任せている仕事の報酬を、後から減らす場合はさらに注意が要ります。フリーランス法(第5条)は、従業員を使う発注者(法人なら役員が2人以上いる場合も含む)がフリーランスに1か月以上の業務委託をするとき、フリーランスに責任がないのに、委託したときに定めた報酬の額を後から減らすことを禁じています。公正取引委員会などのパンフレットは「名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されています」と説明しています。財務省・公正取引委員会などのQ&A(Q7)も、取適法の代金の減額について、仕入先が免税事業者であることは仕入先の責めに帰すべき理由に当たらないとしています。
これから委託する分の報酬でも、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは、買いたたきとして同じ第5条で禁じられています。パンフレットは、こうした禁止行為はフリーランスの了解を得たり合意していたりしても違反になると説明しています。報酬の取り決めを変えるなら、相手と十分に話し合い、合意した条件を書面かメッセージで渡します。
相談先は2つに分かれます。インボイスを踏まえた価格の見直しの相談先は、Q&Aの別紙にある相談窓口(公正取引委員会・中小企業庁)です。フリーランス法の減額や買いたたきは、パンフレットの問い合わせ先(公正取引委員会のフリーランス取引適正化室、中小企業庁の取引課)で確かめられます。話し合いに入る前に、まず誰にいくら払っているかを一覧にしておくと、どの相手が経過措置の対象かを取り違えずに済みます。
AIに頼む支払先の一覧と確認の文面 ─ 登録番号は公表サイトで確かめる
支払先の一覧の形と、相手に登録番号を尋ねる文面は、AIにたたき台を頼める作業です。閉店後に請求書を見ながら埋めるときも、列を先に決めた表があれば、どの支払先を確かめ終えたかが一目で分かります。AIに渡すメモは、決めたことを先頭に置きます。たとえば次のように書きます。
- ・前提: 一般課税で申告している(顧問の税理士に確認済み)。10月1日以降に完了した仕事・受け取った商品の支払先から、経過措置の対象になる相手を洗い出したい
- ・支払先の書き方: 「業務委託A(カット・カラー)」「店舗の家主」「撮影の外注先B」のように役割で書く。個人名・住所・口座番号は入れない
- ・表の列: 支払先/支払いの種類(報酬・家賃・委託料)/毎月の額(税込)/登録番号の有無/確かめた日
- ・確認の文面: 登録番号を教えてほしいというお願いだけにする。報酬の額や今後の取引条件には触れない
上がってきた表は、登録番号の欄を国税庁の公表サイトで確かめてから埋めます。AIの答えは公表サイトの記録ではないので、AIが書いた番号や「登録済み」の文字をそのまま使いません。確認の文面では、報酬の引き下げをにおわせる言い回し(「登録がない場合は条件を見直します」など)が足されていないかを見ます。登録のお願いと、引き下げや打ち切りの通告の違いは、前の章のQ&A(Q7の6)のとおりです。
個人名や口座番号を入れない理由は、5月15日の『お客様情報、AIに入れて大丈夫?サロンで決めたい3つの個人情報ルール』でお伝えした考え方と同じです。表の形と文面だけならAIに頼めますが、報酬は相手との話し合いで決め、申告の方法はサロンと税理士で決めます。
確かめる順番のまとめ ─ 申告の方法、支払先、報酬の話し合い
- ・① 自店が一般課税か、簡易課税・2割特例かを確かめる(2割特例は2026年9月30日を含む課税期間まで)
- ・② 一般課税なら、10月1日以降の仕入れに当たる支払先(業務委託・店舗の家賃・個人の外注)を一覧にし、登録番号を公表サイトで確かめる
- ・③ 報酬を変えるなら、すでに任せた分は後から減らさず、これからの分を相手と十分に話し合って決め、合意した条件を書面かメッセージで渡す(パンフレットは、了解や合意があっても後からの減額や買いたたきは違反になると説明)
迷う点は、税のことは税理士か税務署、取引の決まりは公正取引委員会・中小企業庁の窓口で確かめます。
よくある質問
支払先がインボイスの登録をしているかは、どこで調べられますか?
経過措置を使うとき、帳簿や請求書で気をつけることはありますか?
簡易課税に切り替えたほうが得ですか?
参考にした情報
この記事の制度は、国税庁の特集ページと改正のリーフレット、インボイスQ&A(経過措置の計算は問130)、財務省の令和8年度税制改正の大綱の概要、財務省・公正取引委員会などのQ&A(令和8年1月30日改正)を確認して書きました(2026年10月2日時点)。経過措置の根拠条文は、国税庁のQ&A(問113)が「28年改正法附則52、53」と示しています。課税仕入れの範囲は国税庁のタックスアンサーNo.6451とNo.6201、給与と報酬の分け方は消費税法基本通達1-1-1、報酬の減額の禁止は公正取引委員会などのフリーランス法のパンフレット、登録の確かめ方は国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認しています。
出典
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